結婚や就職など、ライフステージが変わっても変わらず癒やしを与えてくれるペットたち。昨今ではSNSを中心に「ペットは家族」という価値観が広く共有されるようになり、その存在の大きさは疑う余地もありません。
しかし一方で、犬や猫の体調不良、あるいは死を理由に仕事を休むことについては、社会全体で今なお根強い賛否が存在します。
ネットの相談サイトなどでは、「ペットを病院に連れていくために、親族が危篤だとうそをついて会社を休んだ」という体験談や、職場で「ペットが病気だから仕事を休む」と言えず、体調不良を装うといったケースが散見されます。
愛犬や愛猫を可愛がる個人の気持ちは自由ですが、職場は多様な価値観と労働契約によって成り立つ場です。
急なペットの病気で仕事を休む際、どのような法的リスクがあり、周囲はどう感じているのか。「嘘の言い方」に潜む危険性と、職場の現実から考えます。
法律から見たペット休暇と「有給休暇」の現実
そもそも、ペットを理由に仕事を休むことは法的に認められているのでしょうか。
日本の労働基準法や就業規則の観点から、その位置づけを整理します。
結論から言えば、企業にはペットのための休暇(ペット休暇や忌引きなど)を従業員に与える法的義務は一切ありません。
労働基準法が定める休暇は主に「年次有給休暇」に限定されており、忌引き休暇や慶弔休暇といった特別休暇の範囲は、各企業の就業規則に完全に委ねられています。
そして一般的な企業の就業規則において、忌引きの対象は「配偶者、父母、子」などの近親者に限られており、ペットを対象に含めている企業は極めて稀であるのが現実です。
有給休暇なら当日申請でも自由に休めるのか?
「それなら、有給休暇を使えば文句はないはずだ」と考える方も多いでしょう。確かに労働者には有給を取得する権利がありますが、ここにも法律上の制約が存在します。
労働基準法第39条第5項では、企業側に「時季変更権」を認めています。
これは、従業員が希望した日に休むことで「事業の正常な運営を妨げる場合」に、会社が別の時期への変更を求めることができる権利です。
つまり、繁忙期や人員不足のタイミングでの急な申請は、必ずしもストレートに通るとは限らないのです。
また、多くの企業では就業規則や社内慣行によって「有給休暇は原則○日前までに申請すること」というルールが定められています。
そのため、当日の朝になって急に「犬の体調不良で仕事を休みます」と当日申請をしても、実務上、会社側から却下されたり、無断欠勤扱いとされたりするケースは決して少なくありません。
ペットの病気で会社を休む「嘘の理由・言い方」に潜む懲戒リスク
当日申請が通らない、あるいは「ペットのために仕事を休む」と言いづらいからといって、安易な「嘘の言い方」でその場をしのぐ行為は、単なるマナー違反では済まない重大な法的リスクを伴います。
身内の危篤や自分の体調不良……「休暇の方便」は誠実義務違反
ネット上では「ペットの看病であることを隠し、家族の病気や自身の急病と偽って休めばいい」といった無責任なアドバイスが見られます。
しかし、こうした虚偽の理由による申請は、労働契約上の「誠実義務」に対する重大な違反行為です。
労働者は会社に対して誠実に勤務する義務を負っています。
たとえ有給休暇の取得自体が権利であったとしても、事実に反する虚偽の理由を付随させて会社を欺き、それが発覚した場合、会社に対する明確な「背信行為」とみなされます。
虚偽申請が発覚すれば、就業規則に基づく懲戒処分の対象となり、処分の重さは警告や減給に留まらず、最悪の場合は「懲戒解雇」に至る可能性も否定できません。
実際に「懲戒解雇」の有効性が認められた裁判例
実際に、家族の看病や自身の病気を装って虚偽の休暇取得を繰り返した従業員に対し、企業の秩序を著しく乱したとして下された懲戒解雇処分を「有効」と認めた判決(東京地裁 平成15年9月18日判決など)が存在します。
裁判所は、労働者側の度重なる虚偽報告が「会社との信頼関係を根底から破壊するものである」と厳しく判断しています。
「ペットは家族だから、嘘をついてでも守るのが正しい」という主観的な正当性や感情論は、法的な労働契約の場においては通用しないのです。
アルバイト・パートなら嘘をついて休んでもいい?
「アルバイトなんだから責任も軽いし、最悪辞めてしまえばいい」という甘い考えを持つ人もいるかもしれません。
しかし、雇用形態によって労働契約の重みや誠実義務が変わることはありません。
特に注意すべきは、確定していた勤務日に「嘘の理由」で突発的に欠勤した結果、職場に実害が生じたケースです。
例えば、一人が嘘をついて休んだために店舗が営業不能になったり、重要な納期が破綻したりした場合、その原因が正当な理由のない虚偽報告であれば、最悪の場合、会社から損害賠償を請求される法的リスクもゼロではありません。
「辞めればリセットされる」というのは、単なる飼い主側の無知な妄想に過ぎないのです。
ペットオーナーの感情と職場の現実
ペットオーナーにとって、ペットの体調不良や死は深刻なストレスになることが多いのも事実です。
ペットロス症候群に関する研究(米国、2021年)では、ペットオーナーの約30%が重度の悲しみを経験し、仕事のパフォーマンスに影響が出るとされています。
この感情は尊重されるべきですが、職場は個人の感情だけでなく、集団の利益を優先する場です。
日本の労働環境では、ブラック企業や「休みにくい雰囲気」が根強いのが現状。
厚生労働省のデータ(2024年)によると、過労死ライン(月80時間超の残業)を超える企業も多く、サービス残業や人手不足が常態化している中、多くの労働者は心身の余裕を削りながら業務をこなしています。
このような環境下では、子育て中の社員ですら「子どもの急な発熱」で休むことに強い罪悪感を抱き、無理をして出勤しているケースが多々あります。
そうした現実がある中で、「ペットの体調不良」を理由に堂々と休む人が現れれば、周囲に「なぜペットだけが特別扱いされるのか」という強い不公平感や反感が生じるのは当然の結末と言えます。
感情的な主張は逆効果になる場合も
「ペットは家族なんだから休んで当然」と感情的に訴えるペットオーナーもいますが、こうした主張は職場で逆効果になる場合もあります。
会社は利益を追求する集団であり、仲良しグループの集まりではありません。サービス残業が蔓延り、育休すら浸透していない中、ペットのための休暇を特別扱いするのは難しいと言えます。
「15年寄り添った家族だ」「我が子同然だ」と感情を押し付けても、業務負担を強いられる同僚や、休暇を認めない会社には響かないのです。
もっといえば「ペットは家族」という言葉にうんざりしてる人も多い。
そこへ来て「自分は動物想いのいい人、拒否する会社がおかしい」と考えるスタンスは、職場の反感を買うリスクがあり「どうぞ休んでくださいな」とは思わない人が多いのが現実でしょう。
ペットを飼うのは100%個人の選択であり、その責任は飼い主だけが背負うべき問題なのです。
結論:ペットの全責任は飼い主にある。「事前の言い方」と備えが鍵
有給休暇の原則として、事前に申請する分には「私用」と記載するだけで理由は不要です。
本当にペットを大切にしており、かつ社会人としての責任も果たすつもりがあるならば、当日急に嘘をついて騒ぎ立てるのではなく、平時から相応の準備と根回しをしておくのが当然の義務と言えます。
1. 平時からの事前相談と信頼関係の構築
ペットの健康状態が良いときから、「もし将来、ペットの介護や急死といった不測の事態が起きた場合、どのように休暇を申請すべきか」について、就業規則を確認し、上司のスタンスを事前に把握しておくべきです。
あらかじめ相談し、日頃から周囲との信頼関係を築いて業務の引き継ぎ体制を整えておくことこそが、急な局面でも職場に迷惑をかけず、自身の評価も落とさない「大人の言い方」でありマナーです。
2. 24時間対応の動物病院や火葬業者の事前リストアップ
本当にペットを「家族」と呼び、その命に責任を持っているならば、リスク管理の徹底は不可欠です。
夜間や休日に診察可能な24時間対応の動物病院や、急な事態でも対応してくれる火葬業者を、事前にすべてリストアップして把握しておくことは飼い主の最低限の義務です。
こうした備えを日頃から行っていれば、「平日の勤務時間中に慌てて仕事を休み、病院へ駆け込む」という最悪のパターンを回避し、職場への影響を最小限に抑えることができます。
会社にペット休暇を認める義務はなく、周囲の人間もあなたの感情を無条件に受け入れてくれるわけではありません。
厳しいようですが、「一切の準備を怠り、当日急に嘘の言い訳を使って休み、同僚に負担を丸投げする」ような人間が、いくら口先で「ペットは家族」と尊そうに語ったところで、社会的な信用を失うのは必然です。
行政や会社に甘えることなく、自らの全責任においてリスクを管理し、職場との信頼関係を維持しながら両立を図る。
それこそが、愛書家ならぬ「真の愛犬家・愛猫家」が果たすべき、本当の自己責任の姿ではないでしょうか。



