" /> 犬税(ペット税)は必要か?飼い主に甘すぎる現実と社会が負担する不公平 | シン・犬の十戒

犬税(ペット税)は必要か?飼い主に甘すぎる現実と社会が負担する不公平

日本の犬の推定飼育頭数は若干の減少傾向にあるものの、都市部を中心にペットとの共生に関する社会的な課題は依然として顕在化しています。

特に公園や公共空間では、一部の犬による糞尿放置やノーリード、犬が苦手な人への配慮不足など、飼い主と非飼い主の間で不満の声が高まっています。

公共施設の維持管理費は、主に市民が納める税金で賄われているため、「人間のための税金が、犬の散歩や環境整備に間接的に使われているのは不公平ではないか」という疑問などが、「犬税」という形で飼い主に費用負担を求める議論の背景となっているわけです。

犬に税をかけた分、愛護センターでの譲渡に費用を投入すれば、殺処分問題の解決につながるという声も。

犬税は、無責任な飼育の抑制、殺処分問題の解決、公共空間でのマナー向上といった課題を本当に解決できるのでしょうか。

日本の現状:犬の飼育と法規制の課題

現行の日本の犬の飼育をめぐる課題は、主に既存の法律の不徹底に起因します。飼い主には狂犬病予防法に基づき、犬の登録狂犬病予防注射、そして注射済票の装着が義務付けられていますが、この法的な義務の遵守率は低く、犬の登録率は約7割、予防接種率は約5割、注射済票の装着に至っては約2割程度に留まっているともいわれているのです。

この未登録・未接種の犬が多い現状こそが、公衆衛生上のリスクや、咬傷事故などのトラブルを把握しにくくする要因となっています。

過去には、明治時代から戦後にかけて一部の自治体で犬税が導入されましたが、「徴税コストが税収を上回る」「登録犬と未登録犬の間で公平性が保てない」などの制度的・財政的な問題が主因となり、その多くが廃止された経緯があります。

これは、「税金を課しても管理が難しい」という歴史的な教訓を示しています。

さらに、現在問題となっている、無責任な飼い主による多頭飼育崩壊や、ピットブルなどの危険犬種に対する規制不足、フレンチブルドッグなどの健康問題(短頭種症候群など)を抱えやすい犬種の無計画な繁殖など、動物福祉に関わる新たな課題も、既存の法律や仕組みだけでは対応しきれていないのが現状です。

3. 犬税導入の賛成意見:期待されるメリット

犬税の導入を支持する最大の理由は、安定した財源の確保です。税収を殺処分ゼロに向けた活動(動物保護シェルターの拡充、去勢・避妊手術の助成)や、公共空間のマナー向上対策(ドッグランや専用エリアの整備、専任のドッグトレーナー配置)に充てることで、社会全体の動物福祉を向上させることができます。

また、税金という経済的負担は、安易な衝動買いを防ぎ、飼い主に「命を預かる」という飼育責任の向上を促す効果も期待されます。ドイツなど海外の例では、犬税が動物愛護行政を支える柱の一つとなっており、日本でも非飼い主側の不公平感の解消につながるという論理です。

4. 犬税導入の反対意見:課題と限界

一方で、犬税導入には根強い反対意見と現実的な限界があります。最も強い懸念は、「税金を払っても権利は生まれない」という点です。

例えば、たばこ税を納めても喫煙所に困るように、犬税を納付しても、災害時の同行避難の完全な保証や公共空間での権利拡大が約束されるわけではありません。

また、経済的な負担増は、特に高齢者や低所得者層にとって大きな壁となり、飼育の継続を困難にさせ、ペットの遺棄増加につながるリスクが指摘されています。

すでに「犬は家族」という意識が強い中で、税金を課すことがかえって飼い主の不満や反発を招き、「同じ命なのに差別だ」という感情的な軋轢を生む可能性もあります。さらに、税を逃れるために未登録の犬が増加し、かえって管理が困難になるという懸念も無視できません。

5. 公共空間と殺処分問題:犬税で解決するのか

現在、公共空間で問題となる糞尿放置やノーリード問題は、飼い主のモラルと意識に依存する部分が大きく、一部の無責任な飼い主のために、ルールを守っている多くの善良な飼い主が批判にさらされています。

また、年間約2千頭(環境省データ)に上る殺処分問題も、その解決は現在のボランティア団体への依存から脱却し、行政の組織的な介入と財源が不可欠です。

犬税によって財源が確保されたとしても、その税収が確実に動物福祉やマナー指導に投じられ、行政による厳格な管理体制と意識改革が伴わなければ、公園の環境改善や殺処分数の大幅な減少といった根本解決には繋がりません。税金はツールであり、それを使う「仕組み」と「意志」が問われます。

6. ペットツーリズムと災害時の課題:税金なしの現状

近年、国を挙げてペットツーリズムが推進され、観光地ではペット同伴可能な宿泊施設や飲食店が増加しています。しかし、その陰で、無責任な飼い主が「どこでも連れて行ける」と誤解し、旅先でのトラブルを招く懸念もあります。

さらに深刻なのが災害時の対応です。現在、多くの自治体で同行避難が推奨されていますが、避難所でのペット対応には地域や避難所ごとに大きなバラつきがあります。「ペットも家族で同じ命」という飼い主の意識と、避難所の限られたスペースやアレルギーを持つ人々の現実とのギャップは解消されていません。

犬税がない現状は、無責任な飼い主の飼育環境の把握や、避難所でのペット用物資の備蓄といったインフラ整備の準備不足にも影響しています。

7. 犬税導入の現実性:なぜ進まないのか

犬税の議論が過去の教訓から進まない背景には、政治的な難しさがあります。一部で導入を求める声はあっても、飼い主や一般市民の声は小さく、メディアも大きなテーマとして取り上げません。

政党や政治家も、多くの有権者である飼い主の反発を避けるため、直接的な負担増となる犬税よりも、動物愛護法の強化や生体販売の規制といった、比較的に賛同を得やすい政策に注力しがちです。

ドイツのように年間100ユーロ(約1万6千円)といった明確な税率で、公共的な課題が顕著にならない限り、「火中の栗を拾う」政治家は現れにくく、現状維持が続くと予測されます。

8. 結論:現行法の強化が先決

犬税は、無責任な飼育に歯止めをかけ、動物福祉の財源を確保するための魅力的な選択肢ではありますが、導入の難しさや、税金がもたらす新たな問題(遺棄の増加、真面目な飼い主への負担集中)を考えると、万能薬とは言えません。

いま最優先すべきは、新しい税を導入することではなく、現行法の徹底です。

無登録・無接種、注射済票の未装着といった明確な違法行為に対し、罰則の強化と取り締まりの厳格化を行うことが急務です。

また、危険犬種の規制や、問題のある繁殖業者への対応、そして災害時の避難所対応の改善と、飼い主に対する法的な教育を優先すべきです。

犬税は、これらの基盤整備が進んだ後の「将来の選択肢」として、社会全体でその是非を議論し続けるべきテーマと言えるでしょう。

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