ペットを「家族」と主張する人が増えています。日本ペットフード協会によると、2023年のペット市場は約1.6兆円に達し、SNSでは「ペットは家族」との声が多数見られます。
一方で、ペットの体調不良や死を理由に仕事を休むことには賛否があります。
Xやネットの相談サイトなどでは、「ペットが死んだと言って休んだが、実は旅行だった」といった投稿も見られ、休暇の「方便」として使うケースも存在します。
逆に、ペットを病院に連れていく為に、親族が危篤だと嘘をつくケースも。
ペットを可愛がる気持ちは理解できるものの、職場は多様な価値観が集まる場。
ペットを理由にした休暇は、どこまで認められるべきなのでしょうか?
法律と現実の観点から探ります。
法律から見たペット休暇
ペットを理由に仕事を休むことは、法的に可能なのでしょうか?
日本の労働基準法や就業規則の観点から、ペット休暇の法的地位を整理しますと、企業には、ペットのための休暇を認める法的義務はありません。
労働基準法では、休暇に関する規定は主に年次有給休暇(第39条)に限定され、忌引き休暇や特別休暇は企業の就業規則に委ねられています。
忌引き休暇は通常、近親者(配偶者、父母、子など)の死亡に適用され、ペットを対象とする企業はほぼありません。
有給休暇も自由に取れるわけではない
ペットの体調不良や死を理由に休む場合、有給をとれば問題ないと思っている方も多いと思いますが、有給休暇には制約があります。
労働者は希望する日に有給休暇を取得する権利がありますが、企業には「時季変更権」(同条第5項)があり、事業の正常な運営を妨げる場合、別の時期に変更を求めることができるのです。
つまり、繁忙期や急な申請は認められない可能性があるということ。
また、当日申請については、労働基準法に明確な却下規定はありませんが、多くの企業では就業規則や慣行で「事前申請」を求めるルールを定めています。
このため、急なペットの体調不良による当日申請が却下されるケースは少なくないと言えるでしょう。
たとえば、就業規則で「有給休暇は原則2日前までに申請」と定めている場合、当日申請が認められないことが実務上一般的です。
嘘をついて休むとクビになる可能性も
虚偽の申請は重大なリスクを伴います。SNSやネットの相談サイトなどでは、「ペットが病気と偽って休んだ」といった投稿が散見されますが、虚偽の理由で休暇を取得すると、就業規則違反として懲戒処分(警告、減給、解雇など)の対象になる可能性があります。
実際に、病気と偽って休暇を繰り返し取得したことや、本来業務を行うべき時間に無断で離席していたことなどが就業規則違反とされ、懲戒解雇が有効とされた裁判例は存在します(例えば、東京地裁 平成15年9月18日判決など)。これらの判例では、虚偽の申告や会社に対する背信行為が、企業秩序を乱す重大な行為と判断されています。
虚偽申請は、ペット休暇に限らず、法的に問題となり得る行為、「嘘をついて休めばいいよ。」などと無責任にアドバイスすることも控えるべきだと言えるでしょう。
ペットオーナーの感情と職場の現実
ペットオーナーにとって、ペットの体調不良や死は深刻なストレスになることが多いのも事実です。
ペットロス症候群に関する研究(米国、2021年)では、ペットオーナーの約30%が重度の悲しみを経験し、仕事のパフォーマンスに影響が出るとされています。
この感情は尊重されるべきですが、職場は個人の感情だけでなく、集団の利益を優先する場です。
日本の労働環境では、ブラック企業や「休みにくい雰囲気」が根強いのが現状。
厚生労働省のデータ(2024年)によると、過労死ライン(月80時間超の残業)を超える企業も多く、サービス残業や人手不足が常態化しています。
こうした環境では、ペット休暇のような新たな制度は「贅沢」と映りがちです。
さらに、子育て中の社員が子どもの体調不良でも出勤を強いられるケースも多く、ペット休暇を特別扱いすると、「なぜペットだけ?」という不公平感や反感が生じるリスクがあります。
ペットオーナーが休暇を取ることで、上司や同僚からの評価が下がる可能性も否定できません。
職場の現実とペットオーナーの課題
ペット休暇をめぐる現実は、職場によって大きく異なりますが、以下の課題が浮き彫りです。
・会社に休ませる義務はない
労働基準法上、ペットのための休暇を認める義務はなく、企業は業務の継続性を優先します。特に人手不足の業界(医療、介護、サービス業など)では、1人の欠員が大きな負担に。ペットオーナーが休むことで同僚に業務が押し付けられ、不満や軋轢が生じやすい。
・有給休暇の制約
有給休暇は保障されているが、時季変更権や当日申請の却下により、自由に取れるわけではない。繁忙期や急な申請では、ペットオーナーでも休みが取りにくい。
・不公平感と評価への影響
ペットを飼わない社員や、子どもの体調不良でも出勤する社員から見れば、ペット休暇は不公平に映る。日本の職場文化では、個人的な理由での休暇が「わがまま」と見なされ、評価が下がるリスクもある。
・職場ごとの対応の差
アットホームな中小企業や、ペットオーナーの上司が理解ある場合、ペットの体調不良で休みが認められることもある。「ペットの死で休んだら上司が寄り添ってくれた」といった声がある一方、「ペットの話は一切通じなかった」との声もあり、職場環境の差が大きい。
感情的な主張は逆効果になる場合も
「ペットは家族なんだから休んで当然」と感情的に訴えるペットオーナーもいますが、こうした主張は職場で逆効果になる場合もあります。
会社は利益を追求する集団であり、仲良しグループの集まりではありません。サービス残業が蔓延り、育休すら浸透していない中、ペットのための休暇を特別扱いするのは難しいと言えます。
「15年寄り添った家族だ」「我が子同然だ」と感情を押し付けても、業務負担を強いられる同僚や、休暇を認めない会社には響かないのです。
もっといえば「ペットは家族」という言葉にうんざりしてる人も多い。
そこへ来て「自分は動物想いのいい人、拒否する会社がおかしい」と考えるスタンスは、職場の反感を買うリスクがあり「どうぞ休んでくださいな」とは思わない人が多いのが現実でしょう。
ペットを飼うのは個人の選択であり、その責任は飼い主だけが負うもの。感情的な主張で休暇を求める前に、職場の状況や他の社員への影響を考える必要があるのではないでしょうか。
重要なのは、事前に職場の休暇方針や上司のスタンスを確認し、準備を整えること。
ペットが健康であるうちから、「ペットが病気になった場合や急に死んだ場合の休暇について」事前に相談しておくことで、信頼を損ねずに済む可能性が高まります。
また、24時間対応の動物病院やペットの火葬業者を事前に調べておくことも有効です。夜間や休日に診療可能な病院や、火葬手配の業者をリストアップしておけば、急な休暇申請を減らし、職場への影響を最小限に抑えられます。
結論:ペット休暇は職場次第、事前準備が鍵
ペットを家族と思う気持ちは大切ですが、職場は多様な価値観が共存する場です。
会社にペットのための休暇を認める義務はなく、有給休暇も自由に取れるわけではありません。
ペットオーナーが休むことで他の社員に負担がかかれば不公平感が生じ、上司からの評価が下がるリスクもありますし、ペットを理由に休むことが特別扱いと見られやすいのも事実です。
福利厚生が充実したホワイトな大企業では、休暇制度や柔軟な対応が整っているため、ペットのための休みが取りやすい傾向がありますが、その一方、人手不足の中小企業では、1人の欠員が大きな負担となり、「ペットで休むなんてありえない」と言われるケースもあり、結局は職場の環境次第というのが結論になります。
ペットオーナーとして大切なのは、直前に感情に訴えるのではなく、事前に職場の休暇方針を確認し、準備を整えること。
ペットの全責任は自分にあることを前提に、備えを怠らず、職場と信頼関係を築きながら、ペットと仕事の両立を図るのが最善の道だといえるでしょう。
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